2010年8月13日金曜日

比嘉豊光さんの「骨の戦世(いくさゆ)」65年目の沖縄戦,に衝撃が走る。

 『世界』9月号の巻頭を飾るグラビア・ぺージに,比嘉豊光さんの「骨の戦世(いくさゆ)」65年目の沖縄戦,が掲載されている。しかも,招待作品として。
 65年ぶりに元日本兵の遺骨が土の中からでてきた。新都心「おもろまち」の開発の延長線上にあるシュガーローフと呼ばれる,かつての激戦地の一角から,大量の遺骨が65年ぶりに日の目をみたというのである。沖縄の「戦世」を撮りつづける写真家比嘉豊光さんが見逃すわけがない。その驚くべき遺骨の発掘現場からの写真が,『世界』の巻頭グラビア・ページに掲載されている。まずは,黙って,写真と向き合うことをお薦めする。また,実際にも,写真にはひとことの「説明」も付されてはいない。あるのは,巻末の303ページに「グラビアについて」という1ページの比嘉豊光さんの抑制のなかに興奮がつたわる文章のみ。
 この写真に寄せて,仲里効(メディア工作者),北村毅(早稲田大学),西谷修(東京外国語大学)の3氏がそれぞれの立場から,読みごたえのある文章を展開している。いずれも迫力満点で,おもわず立ちすくんでしまう。沖縄についてかくも無知であったことが恥ずかしくて・・・。しばし呆然としてしまって,なにも手につかない。
 さて,グラビアの写真にもどろう。まず,最初に驚いたのは,2枚の写真の骸骨が,大きな口を開けて笑っているようにみえたことだ。笑っている,などと書くと不謹慎のそしりを免れかねないが,じっと,みればみるほどに「笑っている」ようにみえるのだ。まるで,65年間の土中の生活から解放されて,ようやく「この世」に生き返ってきたことを喜んでいるかのように。一体は,背中に鉄兜を背負ったまま,仰向けに倒れたかのように,そのまま大きな口を開いている。さらに,じっと見ていると,ひょっとしたら左胸のあたりに弾があたって(左鎖骨が大きく破損している),絶叫して倒れ,そのまま息絶えたか,ともみえる。と,おもうとこんどはわたしの胸に痛みが走る。銃弾にあたって,その苦しみのまま息絶えたかとおもうと,こんどは凝視することができなくなってしまう。そういう,さまざまな連想が引き出されてしまう,驚くべき写真が8ページにわたって掲載されている。必見の写真である。
 撮影をした比嘉豊光さんの文章によれば,ある一体からは頭蓋骨から「脳髄」がでてきた,という。ボランティアで洗骨をしていた人とともに驚いて(このとき,比嘉さんはビデオをまわしていた),急いでカメラに持ち替えてシャッターを切った。しかし,写真は写っていなかった(みんな,ブレていたり,ピンぼけ写真ばかりだった),という。興奮してしまって,全身が震え,手もまったくコントロールを失っていた,と。だから,気持ちが落ち着くまで待って,冷静さをとりもどしてから撮影をし直したと,告白している。
 なお,比嘉豊光さんのこの「骨の戦世」65年目の沖縄戦の写真展が,秋には明治大学で開催されると聞いている。時間をみつけて,ぜひ,一度は足を運んでみようとおもう。できれば,久しぶりに比嘉豊光さんにお会いしたい。そして,直にお話を聞いてみたい。比嘉さんのことだから,文章には書けない秘話を,こっそりと語ってくれるのではないか・・・と期待して。
 この写真に寄せた3人の論者の論考については,直接,読んでいただきたい。余分なことを書いて,レベルを下げる愚は避けたい。

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