2010年9月18日土曜日

西谷 修さんの集中講義・第一日目。

 昨日(17日)から,沖縄国際大学大学院地域文化研究科の集中講義がはじまった。タイトルは「グローバル世界とメディアの現状」。
   西谷さんは,いつものように平常心のまま,やさしい口調で静かに語りはじめたが,その裏側にはなみなみならぬ気迫が漲っている。それがそこはかとなく伝わってくる。いいなぁ,としみじみ思う。いわゆる講演会やシンポジウムとは違って,なにせ,15コマ分の授業である。1コマが90分。ということは,全部で1350分。すなわち,22時間30分。講演はふつう90分。シンポジウムだともっと短い時間での発言になる。もちろん,これはこれで短期決戦的な,一点集中的な論旨の展開があって面白いのだが,22時間にもわたって論旨を展開する集中講義は別格だ。だから,微に入り細にわたり知の背景にまで話が食い込んでいく。なるほど,ひとつの知の体系を明らかにするために,これだけの裏付けがあるのだ,と感動の連続である。こういう話は滅多に聞けるものではない。やはり,沖縄まで追っかけてきてよかったと思う。
 配布されたレジュメや資料だけで,A4の用紙,35枚。それにパワーポイントをつかって,懇切丁寧な説明がある。その上で,映像・図像をみせながら,むつかしい話をわかりやすく展開していく。みごとというほかはない。
 西谷さんは,まず最初に,この集中講義の全体構想を明確にする。それは,以下の三つの柱である,と。
 1.メディアをめぐる問題系
 2.アメリカとはなにか
 3.自発的隷従(ボエシー)
 これらのテーマの概要をあらかじめかなり詳しく説明しながら,それぞれのテーマに籠められている重要なポイントを明らかにしていく。そして,それらはいずれもしっかりとお互いにリンクしているので,何回もくり返し,こちらのテーマからあちらのテーマへと往復運動をすることになる,とのこと。そして,このテーマを設定した背景には,①日米安保50年という節目の年であること,②沖縄にとってまたとない重要な節目の年を迎えていること(ことしこそ,これまでにない重大な年であること),の二つを強く意識した,と。
 こうして,これからはじまる集中講義の全体像を明確にしていく。なるほどなぁ,と感心しながら聞いている。このことをあらかじめきちんと解きあかすことによって,思考の共有の「場」を確保しようというわけだ。これができていれば,あとは,かなりランダムに話があちこちに飛んでしまっても,戻るべき「場」がわかっているので,迷うことなく,楽しく聞きとることができる。なるほど,集中講義への入り方まで教えてくれる。学ぶことばかり。
 考えてみれば,沖縄国際大学は,キャンパス内に普天間の米軍基地のヘリコプターが墜落して,その取り扱いをめぐって大問題になった過去をもっている。ヘリコプターが激突した建物は新しく建て替えられてきれいになっている。だから,どの建物にヘリが当たったのか確認することはできない。ただ,幹を残しただけでその他はみんな焼けてしまった黒こげの木がモニュメントとして大学正門の左側に残されている。キャンパスの外からも自由に出入りできるようになっている。その右手に,フェンスに囲まれるようにして,ヘリが激突したときの傷跡を残した壁面が一部設置されている。また,大学のキャンパスの内側にも,幹だけを残してそのさきがなくなってしまった木がロータリー風の緑地の中に立っている。しかも,その幹の周囲には,新しい芽を吹いた若葉が色鮮やかに輝いている。こうしたモニュメントをとおして人びとの記憶はつねに新たにされていくに違いない。そういう沖縄国際大学の集中講義であるということを,西谷さんは意識して,学生さんたちに「考えること」の重要性を語りかけていく。
 初日から,西谷さんは気迫を籠めて重いテーマを投げかけていく。
 これからさきが楽しみだ。

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