2011年1月10日月曜日

ソウル放送局とはテレビ局のことでした。

 〔昨日のつづき〕電話で取材申し込みがあったときに確認したことは,「ソウル放送局」と「武道について」だけでした。ですから,わたしは放送局が取材にくるのだから,取材記者がひとりでやってきて,録音するなり,メモをとって終わり,と軽い気持ちでいました。
 約束の時間よりは相当に遅れて(電話で連絡がありました)到着。ドアを開けてみたら,二人で現れました。一人はスーツ姿の中年の紳士,もう一人はダウンのジャケットを羽織った大柄な若者で,大きなテレビ・カメラを担いでいるではありませんか。おやおやと思いながら,ご挨拶。スーツの紳士は李さんという名前,ダウンの若者は金さん。さっそく,金さんはダウンを脱いで三脚を立てて大きなテレビ・カメラをセット。この金さんの大胸筋がただものではありません。なにかスポーツをやっていたんですか,と問うとバレー・ボールをやっていた,とのこと。それにしては,その体格は柔道かシルムの選手ですよ,とわたし。学生時代はもっと細身でした,と金さん。これで少し緊張が解けて,さっそく簡単な打ち合わせに入りました。
 まずは,玄関のドアを開けるところからはじめて,ご挨拶を撮り,事務所と仕事部屋を撮りたい,とおっしゃる。そして,机に坐って仕事をしているところ・・・・,本を読んだり,原稿を書いていたり,パソコンを操作したり・・・と注文はいくつもつづきます。おまけに,本棚も撮りたい,能面も撮りたい,という調子です。ちょうど,いま,ある原稿を書こうとしていて,そのために必要な本があちこち山積みです。これはあまりにひどい状態なので,片づけるからと言ったら,この状態が最高です,という。困りました。が,仕方ないかと諦めることにしました。
 それよりもなによりも,ラジオだと思っていましたから,いつもの普段着のまま。作務衣のできそこなったようなものを着ていて,これでは日本人を誤解されてしまうからと話したのですが,それも「この方が雰囲気があっていい」とまたまた断られてしまいました。もっとひどいのは,わたしの髭。この髭は去年からカットもしないで伸び放題のまま。頭もぼさぼさのまま。ちょっとだけ待ってください,髭をカットして,頭にヘア・リキッドをつけてくるから,という申し出も,「いや,武道を語ってもらうには,このままの方がいい」と言って聞いてくれません。
 そうか,この人たちは,わたしの姿をみて「これは絵になる,いい画像になる」と考えたに違いありません。完全にわたしはひとつの「商品」として扱われている,と気づいたときはすでに手遅れでした。こうなったら,もう,相手の路線に乗っていくしか方法はありません。言われるままに(演出の打ち合わせどおりに),手順を踏んで撮影がはじまりました。かれらの思惑どおりに進んでいることは,かれらの嬉しそうな顔をみていて,途中から気づいていました。そうです。わたしが居直って一生懸命に合わせているのですから。
 さて,肝腎のインタビューの方も,きちんとシナリオ書きがあって,それをカメラマン兼ディレクターと取材記者とで何回も確認しながら進んでいきました。質問は多岐にわたり,これをどうやって編集するのかなぁ,と思いながらまじめに応答しました。質問の主なものをあげておきますと以下のとおりです(記憶に残っている範囲でのことですが)。
 この研究所はいつ開設したのですか。その目的はなんですか。
 武道の歴史について話してください。武道の起源はなんですか。(この応答だけは慎重にしなくてはと考えました。そこで,「武」「武芸」「武術」「武道」の概念の違いを説明し,それから,こんにちで言うところの武道の歴史について概略を話しました。)
 戦後,アメリカのGHQが武道を禁止しましたが,このことをどのように考えますか。
 いまの日本人は武士道についてどのように考えていますか。武士道とはなにですか。
 刀の製造法の歴史について話してください。
 武士が名刀を持つということについてはどのように考えていますか。
 空手の歴史について話をしてください。
 大山倍達についてはどのようにお考えですか。かれが日本の武道に与えた影響はどんなものですか。
 日本でいま一番盛んな武道はなにですか。柔道ですか,剣道ですか,空手ですか。(この問いに対して,わたしは連盟に加盟している人数と,愛好者を合わせると太極拳が一番多いと聞いています。概数ですが,100万人はゆうに越えるだろうと言われています。と応えると,これには驚いた様子でした。)
 最後に,忍者のことについて話してください。(ここは,わたしのもっとも得意とするところですので,熱弁を振るいました。そして,ここは使ってくださいね,とお願いもしておきました。たぶん,大丈夫でしょう。とても関心をもってくれたようですから。なぜなら,忍者は生き延びるためのプロである,ということを強調したからです。まずは,一般にはあまり知られていない忍者と禅仏教との関係をはじめ,天文学,地理学,薬草学,医術,といったありとあらゆる知識を身につけたとき,はじめて名のある忍者となることができるのです,ということから語りはじめ,そのための忍者に固有の修行法にいたるまで,かなり細かな説明をしました。途中で何回も「ほんとうですか」と問い直されたほどです。
 というような具合で,ほぼ2時間,おしゃべりをしました。それが15分に編集されるそうです。さて,どんな映像になるのでしょうか。できあがりを楽しみにしたいと思います。放映日は1月23日,ソウル・テレビからだそうです。あとで,収録したDVDを送ってくれるとのこと。2月の東京月例会の折にでもみていただきましょうか。
 取り急ぎ,以上が昨日のソウル・テレビ収録のご報告です。

 

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