2011年6月7日火曜日

『フィールドへようこそ!2009』南房総の民俗(筑波大学民俗学研究室)がとどく。

A4サイズで400ページもある民俗調査の報告書がとどいた。ずっしりと重い。送ってくださったのは門口実代さん。筑波大学民俗学研究室の先生を筆頭に院生,学生さん総出で行った民俗調査の報告書だ。なかなかふつうでは手に入らない貴重なものだ。
正式な名称は『フィールドへようこそ!2009.南房総の民俗(千葉県館山市畑・南房総市白浜町白浜)』筑波大学民俗学研究室編,2010年3月31日発行。

送ってくださった門口さんは,いまは三重県立博物館の専門職として働いていらっしゃるのだが,この報告書を書いたころは院生として学生の指導にもあたっていらしたようだ。しかも,この報告書の編集も担当され,あちこちに文責・門口実代というサインがある。相当に気合の入った報告書であることが伝わってくる。

この門口さんとは,先月の「ISC・21」5月鳥羽例会(世話人・竹谷和之)の折に初めてお会いし,すっかり仲良しになったばかりである。とても落ち着いた雰囲気のある,それでいてテンポよく会話がはずむお嬢さん。こういう人から聞き取りをされるとどんどんしゃべりたくなってしまうから,民俗調査はまさに天職。

で,5月鳥羽例会のテーマは「海女の研究・PART2」(山本茂紀・和子夫妻)ということだったので,この「海女」の調査もこの報告書のなかにあるということで,門口さんは気をきかせて送ってくださった(と,これはわたしの推測)。しかし,わたしは,まずは,知った人の文章から読む,といういつものセオリーどおりに門口さんの調査結果報告のところから読みはじめた。門口さんのテーマは「白浜における結婚と結婚後のくらし──生業との関係から──」というもの。白浜といえば,海女さんのいるところとして全国的にも有名なところ。当然のことながら,海女さんと結婚の問題が主要なテーマとなってくる。それを,一人ひとり丁寧に聞き取りをして,わかりやすい文章に置き換え,手にとるように再現してくれる。民俗学は聞き取りが上手であることと同時に文章力が問われる。柳田国男や折口信夫の書いたものが注目されたのも,深い見識と同時に,作家の書いたような美しい文章にあった。ついつい引きこまれてしまう,そういう文章の力が必要だ。門口さんは,その点でも,素晴らしい才能に恵まれた人だ。

海女に関する調査報告を一つひとつ内容に立ち入って紹介できるといいのだが,このブログではそこまではできないので,とりあえず,海女に関連する調査報告のタイトルと調査者だけ紹介しておくことにしよう。
「白浜海女まつり──海女漁撈地域における商業的祭り」(田中伸吾)
「漁村の禁忌──海女と漁師の生活を通して──」(高橋紗恵子)
「観光の中に生きる『海女』──旧安房郡白浜町における町おこしと海女芸者──」(伊藤永)
「青木地区の海人の人間関係」(山崎力)
「アマとアマ芸者の事例からみる女性たちの関係──南房総市白浜青木地区の事例より──」(後藤知美)
「海女の生業」(石川慶悟)

以上は,タイトルに海女との関係が歴然としているものだけを拾いだしてみた。この地域は海女さんが大勢,生活しているわけなので,生活のあちこちに海女との関係を見届けることはできる。じっさいに,一つひとつの調査報告を読んでいくと,そうか,こういうところにも海女・海人の風俗・習慣がしっかりと根づいているのか,ということもわかる。だから,言ってしまえば,この調査報告書は,要するに「海女・海人」の住む地域の「民俗」を総合的にとらえているということなのだ。だから,変に分類したり,個別化するのではなくて,まるごと「海女の民俗」というように読んだ方がよさそうだ。また,そのつもりで門口さんはわたしにこの報告書を送ってくださったにちがいない。

そのつもりで,これからじっくりと読んでみたいと思う。海女に関心をもつ人にとっては必携の文献となろう。

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