2011年11月4日金曜日

「身心」(しんじん)と「心身」(しんしん)では大違い。

昨日のブログを書きながら,思い浮かべていたことばに「身心」「心身」がある。仏教用語では「身心」(しんじん)という。このことばが,たぶん,近代に入って「心身」(しんしん)に変化していったのだろう,といまのところ考えている。このことの確認はいつかきちんとしておきたいと思う。が,いまは,なぜ,「身心」が「心身」になってしまったのか,この違いはなにか,ということを考えてみたい。

つまり,「身」が「心」の上にくるか,「身」の上に「心」がくるか,そのことの違いとその背景がここでの関心事である。どちらでもいいではないか,という人もいたが,そうはいかない。なぜなら,「身心」と「心身」では大違いだから。とくに,昨日のブログの「人間」(じんかん⇒にんげん)との関連で考えればなおさらのことである。

英語では mind and body だ。それを逆転させて,body and mind と記述されたものをみたことがない。慣用句として,mind and body は固定化されているのである。それは,ドイツ語でも同じだ。長年の慣用句として,それが当たり前になっている。こんにちの日本語の「心身」と同じように。たぶん,学校の作文などで「身心」と書くと,先生が朱を入れて「心身」と直してくれるはずだ。英語でもそうのはず。

いまでも,雑誌などの依頼原稿で「身心」と書くと,ゲラできちんと「心身」と朱を入れて返してくれる編集者がときおり居る。文脈をきちんと読めばわかるはずなのに,と思いながら,再度,「身心」に訂正して返すことになる。場合によっては,ふたたび,電話を入れてくる編集者もいる。仕方がないので,説明することになる。

さて,本題に入ろう。

「心身二元論」か「心身一元論」かという古典的な議論がある。これらは,いずれもヨーロッパ発の議論で,いつのまにか日本でも,ごく当たり前のようにして「心身二元論」とか,「心身一元論」が議論される。しかし,「身心二元論」とか「身心一元論」というような表記はみられない。もちろん,仏教では「身心一元論」なのだが,そんな議論さえ仏教の世界では不要なのだ。文字で書けば「身心」となり,「身」と「心」と二つの概念が存在することになるのだが,考え方としては「身」と「心」の「間」に区分はなく,まとめて一つ。

たとえば,「修証一等」(道元)ということばがある。道元の主著『正法眼蔵』のなかにでてくることばであることは,よく知られているとおり。簡単に言えば,「修」は修行のこと,「証」は悟りのこと。したがって,修行と悟りは「一等」(一つのもの)であるから,悟りに応じた修行をしなさい,と教えているのである。悟りの伴わない難行苦行は邪道である,と。すくなくとも,曹洞宗系の坐禅道場ではそのように教えているはずである。

したがって,禅仏教では「身心」ということばを,いまでも用いる。きちんとした禅仏教系の坐禅道場などでは,「まず,黙って坐れ」と教える。理屈はあとだ,と。つまり,方法論として「身」が先なのだ。そして,「心」があとからついてくる,と。まずは,ひたすら黙って坐りなさい,と。つまりは,「只管打坐」という次第だ。そして,悟りの境地が高まるにつれて,坐禅の仕方もレベルを上げていく。このことが「身心」の内実というわけだ。すなわち,「身」から入っていく。そのあとに「心」がついてくる,という考え方である。

別の言い方をすれば,「型」から入れ,という。この方法論は,日本古来の武術にも伝承されている。剣道も柔道も,みんな,まずは「型」から教えてもらう。そして,その「型」の習得に務める。そのプロセスをとおして「心」が鍛え上げられていく,という考え方だ。だから,まずは,「型」の稽古。日本舞踊の世界も同じだと聞く。茶道も華道もみんな同じ,という。日本の伝統芸能の基本的な考え方は,みんな「身心」なのだ。

しかし,ヨーロッパでは逆だ。まずは「心」が優先される。その典型がキリスト教。肉体を邪悪なるものとして考え,その肉体をいかに「心」が制御していくか,がポイントとなる。つまり,肉体はあくまでも「心」の僕(しもべ)である,と考える。だから,「心身」でなくてはならないのだ。

しかし,ニーチェ以後の思想・哲学は,キリスト教のこの呪縛から解き放たれたところで,あらたな「身体論」が展開されている。この問題はまたいつか考えることにしよう。

このように,仏教でいう「身心」と,キリスト教のいう「心身」という考え方の違いが背景にある,ということをきちんと頭に入れておこう。このように考えると,日本では,いかなる理由で,「身心」から「心身」へと用語を変更しなければならなかったのか,ということが問題になってくる。そして,いつ,だれが・・・ということも。

どなたか,このテーマを追ってみる人はいませんか。
重要,かつ,とても大事なテーマだと思います。

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