2012年3月13日火曜日

惨事便乗型の復興から「人間の復興」へ,岡田論文(『世界』4月号)を読む。

今月の19日(月)には『ショック・ドクトリン』(ナオミ・クライン著,岩波書店)をテクストにした研究会があるので(すでに,このブログでも案内済み),そろそろ頭をそちらにシフトしなければ,と思っていたところでしたので,『世界』(4月号)を開いて,まっさきにわたしの眼に飛び込んできたのは岡田知弘さんのこの論文でした(このことも昨日のブログで少し触れました)。

ある程度の予想はしていましたが,ほんとうにこの大惨事をとらえた「惨事便乗型」の復興が,具体的に,たとえば,宮城県などを中心にして着々と進行していることを知り,大きな衝撃を受けています。もちろん,仕掛けているのは「経済同友会」や「日本経団連」であり,そこに外資系企業(たとえば,GE)などが参入。村井宮城県知事は,こういうところとしっかり協力関係を築きながら「復興」を目指そうとしています。そうした実態の一部が,明らかにされています。

この論文を書いた人は,岡田知弘さん。京都大学大学院経済学研究科教授。地域経済学,農業経済学。日本地域経済学会理事長,自治体問題研究所理事長。『地域づくりの経済学入門』ほか,著書多数。要するに,この道の専門家。ですから,すべて確たる事実関係を証明する資料を提示した上で,岡田さんの説得力のある持論が展開されています。

少し長いですが,直接,引用しておきましょう。

・・・・20数兆円に達すると予想される復旧・復興市場に内外の復興ビジネスが参入し,それらの支店が集中する仙台市の繁華街は復興景気に沸いている。さらに今回の震災においては,財界が要求した「開かれた復興」論に沿って「復興特区」方式によって農業・漁業分野,医療分野での「規制緩和」がなされ,そこに外資系企業も含む多国籍企業やアグリビジネス,環境・医療関連ビジネス資本が進出しつつある。これは,菅直人内閣時代に方向づけがなされた「創造的復興」政策の一環であり,村井嘉浩宮城県知事が強く求めた政策方向であった。7月29日に定められた「東日本大震災からの復興の基本方針」では,「創造的復興」を基本理念として,東日本大震災を「日本経済」のさらなる「経済成長」や「構造改革」の好機とみなす考え方を強く押し出していた。昨年9月に発足した野田佳彦内閣は,菅内閣の方針を踏襲しながよ,大衆課税をベースにした復興増税の導入やTPP(環太平洋経済連携協定)参加協議の開始,消費税増税を宣言するに至る。震災前からの懸案を東日本大震災という大惨事に便乗して一気に遂行しようという姿勢である。
 このような事態は,「ショック・ドクトリン」(惨事便乗型資本主義)という言葉によって表現されている。だが,これでは,非被災地の復興ビジネスや規制緩和ビジネスの利益や為政者が考える「国益」につながったとしても,災害の最大の犠牲者である被災者の生活再建や被災地域社会の復旧・復興にはつながらないであろう。
 自然災害は避けがたいものであるが,その後の被災者の生活難や困窮,そして復興格差は,明らかにこの一年間の復興政策とそのあり方が生み出した人為的な問題である。政策的要因であるならば,これから政策を見直すことにより改善,解決できる問題も多いといえよう。小論では,過去の災害復旧・復興の歴史的経験も振り返りながら,東日本大震災の復興のあり方を,その政策構想の内実と具体的な施策の実施過程の検証を通して,問い直してみたい。それによって政府や財界が主導する惨事便乗型の「創造的復興」ではなく,被災者の生存権を最優先する「人間の復興」の道こそ求められていることを論じたい。

この部分を読めば,岡田さんの論考の核心を理解することはできると思います。驚くべきことに,日本は国を挙げて,「惨事便乗型」の復興に取り組んでいる,と岡田さんは指摘しています。しかも,それでは「被災者の生存権を最優先する『人間の復興』」は不可能だ,だから,なんとしても「政府や財界が主導する惨事便乗型の『創造的復興』」に歯止めをかけ,『人間の復興』に向けて舵を切る必要がある,と力説しています。

惨事便乗型資本主義というのは,ナオミ・クラインが何回も繰り返し強調していますように,大惨事が起きたら,だれよりも早く「復興」のための具体的な夢多きプランを描いてみせること,そして,政府・官僚を説得し,その路線を敷き,それを実行に移すためのネットを張りめぐらすことだ,といいます。そうしてしまえば,あとは,途中で多少の修正をするだけで,基本方針は変わらない,という次第です。そして,最終的には,被災者の利益ではなく,資本家の利益にすべて還元されていくシステムなのだ,と。

このネオ・リベラリズム(新自由主義)の路線は,すでに,小泉内閣時代から着々とその路線が敷かれ(郵政自由化はその典型例),いまや,急速に加速されているというわけです。

岡田さんの論文によれば,2011年4月6日には,経済同友会が『東日本大震災からの復興に向けて(第二次緊急アピール)』を発表しています。3月11日からまだ一カ月足らずのことです。これに追い打ちをかけるようにして5月27日には日本経団連が『復興・創生マスタープラン』を発表しています。同じ5月には,野村ホールディングスの子会社である野村アグリプランニング&アドバイザリーが農業復興の提言を発表し,実際に動きはじめた,といいます。そして,そこにカゴメやIBMなども加わった「仙台東部地域六次化産業研究会」を組織し,さらには事故を起こした福島第一原発の製造元であるゼネラル・エレクトリック(GE)の日本法人,日本GEも宮城県内に植物工場の設置を計画している,といいます。

ここに書いたことは,その,ほんの一部にすぎません。もう,すでに,東北各地にはありとあらゆる企業が参入を開始しているという,この事実についてわたしたちはほとんどなにも知らないままでいます。気がついたときには,すでに,遅し・・・・というのでは原発推進と同じ過誤を犯すことになってしまいます。

というような具合で,この岡田論文は,惨事便乗型資本主義がもののみごとに,この日本でも適用されている,それも国を挙げて・・・・という実態を浮き彫りにしてくれます。これ以上の詳しいことは,どうぞ,『思想』4月号の岡田論文に譲りたいと思います。

なお,岡田論文の注7.につぎのようにありますので,紹介しておきます。
詳しくは,平野健「CSISと震災復興構想─日本型ショック・ドクトリンの構図」『現代思想』2012年3月号を参照。

こちらも,これから当たってみようと考えています。
今日のところはここまで。

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