2012年3月16日金曜日

「日本版ショック・ドクトリンの構図」を明らかにした平野論文(『現代思想』3月号)を読む。

 『世界』4月号の岡田知弘論文「どんな復興であってはいけないか─惨事便乗型の復興から『人間の復興』へ,の注に紹介されていた平野健論文「CSISと震災復興構想─日本版ショック・ドクトリンの構図」(『現代思想』3月号)を読んでみました。全部で12ページにわたる『現代思想』としてはかなり気合の入った論文扱いになっています。実際にも,迫力満点の論文です。

 わたしは不勉強で,まずは,「CSIS」なるものがいかなるものかすら充分に理解していませんでした。しかし,この論文を読んで,かくも恐るべき組織がアメリカには存在していて,日本の首根っこを押さえこむようにして,強烈な影響力を保持しているのだ,ということを痛いほど知りました。むしろ,逆に,日本という国家はなんなのか,と考え込んでしまいました。沖縄の米軍基地問題が,アメリカの思うままに振り回されている日本政府のふがいなさも,こうした厳然たる日米関係があってのことだ,と理解せざるをえません。

 CSISとはそもそもいかなる組織なのか。

 ここでもわたしの下手な解説を加えるよりも,平野論文の書き出しをそっくり引用した方が,はるかにわかりやすいので,そうしたいと思います。論文の「はじめに」のところで,平野論文は以下のように問題提起をしています。

 本稿では,2011年3月11日に発生した東日本大震災からの復興構想に対するアメリカの関 与・介入について見ていく。
 日本の政府・財界が復興構想を議論し策定していくのは同年4~7月の間である。震災が発生 した翌週(3月15日,3月16日)にはさっそく経済同友会と日本経団連が「緊急アピール」を発表 しているが,ここではまだ人命救助,ライフラインの復旧,義援金,支援活動,節電などがふれら れているにすぎない。3月31日の日本経団連「震災復興に向けた緊急提言」においてはじめてこ うした「復旧」と区別される「復興」についての提言を出しており,復興構想の議論はここから始ま る。その後,表1にあるような推移をたどって,最終的には7月29日(8月11日改訂)の東日本大震災復興対策本部「東日本大震災からの復興の基本方針」で基本骨格が固まった。
 このような日本の政財界による復興構想策定の裏には,アメリカの保守系シンクタンクCSIS  (戦略国際問題研究所,Center for Strategic and International Studies)の関与がある。CSISと はマイケル・グリーン,リチャード・アーミテージ,ジョセフ・ナイなど著名なジャパン・ハンドラーたちを抱えている大型シンクタンクで,「アメリカは日本の震災復興に多大な利害を保持している」との認識から,日本経団連との相談の上で,日本の復興構想に関するタクスフォース(特別検討チーム)を設置した。CSISの作業は,表2のような日程で,日本の財界が先行的に作成した復興構想を学びつつ意見を出すという形で進められているが,そもそも日本とアメリカの財界・専門家たちが頻繁に政策協議や共同研究を行っていることを考えれば,財界が発案している復興構想自体がすでにアメリカの意向を踏まえたものである。その上でさらにCSISが改めて日本の財界・政治家・官僚・専門家・地方自治体などと協議し,後に見るように復興計画に意向を反映させている。このような意味で7月29日の復興対策本部「基本方針」に日米共同で作り上げられたものである。
 CSISは11月2日にレポート”Partnership for Recovery and a Stronger Future”を発表し,11月8日には日本経済新聞社との共催でシンポジウム「東日本大震災,トモダチ作戦と日米同盟の未来」を開催している。また東京財団とSNASの共同研究「『従来の約束』の刷新と『新しいフロンティア』の開拓」(2010.10.27)も大いに参考になる。本稿では,それらをCSISレポート,シンポジウム,共同研究と略記し,この3点をもとに東日本大震災の復興構想に込められているアメリカの要求と狙いを探ることにしたい。

 以上が平野論文の「はじめに」の全文です。もう,これを読めば,日本政府が発表する「震災復興構想」は,CSISの意向を直に受けたものであることが明らかになります。そして,それが,副題となっている「日本版ショック・ドクトリンの構図」そのものであることも残念ながら納得させられてしまいます。新聞やテレビはこのような裏工作が行われているという話は一切しませんので,なにも知らないままに,「日本政府はなにをもたもたしているのか」とその一点にのみ意識が集中していきます。が,どっこい,アメリカのご意向を伺うことなしには,日本政府は身動きひとつとれないのだ,ということをこの平野論文は明らかにしてくれます。

 表1と表2をここに転載することができるといいのですが,残念ながら,割愛させていただきます。書店で立ち読みでも結構ですので,確認してみてください。時系列にそって,どのようにしてことが運ばれたのかということが一目瞭然です。

 以下に,この論文の小見出しを掲げておきます。
 Ⅰ.新自由主義改革の再起動=日本版ショック・ドクトリン
 Ⅱ.復興ビジネスにおける協調と対抗
 Ⅲ.原発政策
 Ⅳ.日米同盟の深化=市民社会レベルでの日本統合
 おわりに

 こういう論文を読みますと,情けないことに,日本はいつからアメリカ合衆国の属州になってしまったのだろうか,思わずにはいられません。星条旗に,新しい星がひとつ加わるのも時間の問題ではないか,と絶望的な気分に陥っていきます。

 そこから脱出するためにも,今回の大震災からの「復興」は自前で進めていかなくてはなりません。そして,『世界』(4月号)の岡田論文が主張するように「人間の復興」をめざさなくてはなりません。宮城県知事は,このCSISの路線を先取りするような型での「復興」をめざしていることも,この論文を読むとよくわかります。その意味では,岩手県知事の主張する「地元の住民」優先の復興計画に,わたしたちは大いなる支援をしていかなくてはなりません。そして,その輪を広げて,宮城県知事の考え方に改善を求めていくことが重要になってきます。そういうところから,はじめるしか方法はないのでは・・・・と思います。

 なお,この『現代思想』3月号には,岡田知弘さんの論文「創造的復興」論の批判的検討,も掲載されています。『世界』の論文の前段をなすものですので,こちらも必読です。

 さらに,「生の<復興>のために」という注目すべき対談が,『現代思想』3月号には掲載されています。対談者は山形孝夫さんと西谷修さんです。この対談のなかでも,西谷さんはナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』について触れています。

19日の研究会はすぐそこにきています。それまでに予習しておかなくてはならないことが山ほどあります。実り多い研究会にするために,可能なかぎりの準備をしておきたいと思います。その意味で,この平野論文と山形・西谷対談ははずせません。

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