2012年3月26日月曜日

鶴竜,文句なしの大関昇進確実,おめでとう。

勝っても負けても,どこか哀愁をにじませる鶴竜の風貌に,なぜか,わたしは惹きつけられてしまう。テレビをとおしてみているだけだが,地味で,生真面目そうな,それでいて我慢強そうな,強い意思の持ち主という印象が,わたしは気に入っている。幕内に上がってきたころから,なぜか,その存在が気になっていた。そんな鶴竜が徐々に,徐々に力をつけて上位で相撲がとれるようになってきた。それでも,わたしは,まだまだ大関になるには時間がかかるだろうと思っていた。しかし,今場所でみごとに化けた。上半身がたくましくなり,小兵とはいえ,どっしりとした相撲がとれるようになった。白鵬を寄り切った相撲などはみごとなものだ。

そして,念願の13勝を挙げた。文句なしの大関昇進の条件をクリアした。あわよくば「優勝」の二文字も頭に浮かんだことだろう。それが千秋楽の相撲となって現れた。本割の豪栄道の相撲は,明らかに立ち遅れだ。豪栄道は,立ち合いで先手をとって一気に押してでる,そのための最高の間合いで立つことができた。その一瞬の立ち遅れが,明暗を分けた。

それと同じことが,優勝決定戦でも起きてしまった。本割で負けている白鵬は,なにがなんでも勝たなくてはならない。その気迫がありありと顔に表れていた。鶴竜はいつもと同じポーカー・フェース。そして,どこか哀愁を感じさせるところがいい。白鵬の立ち合いは,いつもは,相手力士に手をつかせておいてから,自分の呼吸で立つ。しかし,今日の優勝決定戦は違った。自分から,さっさと手をおろして,そのままの間合いで立った。鶴竜は驚いたに違いない。立ったときにはすでに白鵬充分の左四つに組み止めていた。それを嫌った鶴竜は巻き変えて双差しになった。そこを白鵬はすかさず寄ってでる。俵に両足がかかった鶴竜は棒立ちになって必死でこらえる。白鵬はここで勝負あったと思ったに違いない。しかし,足腰のいい鶴竜はその寄りを残した。白鵬のからだを持ち上げるようにして,土俵中央にもどした。その瞬間,鶴竜はこれでよし,と頭で考えたらしい。一呼吸後には,白鵬の右内掛けが空振りになって,右足が大きく右に開いたその流れのまま左上手投げを打たれ,あっけなく鶴竜は土俵に転がった。一瞬の虚を突かれた相撲だった。土俵経験の差が,こんな形ででてくるとは,いささか予想外だった。負けて覚える相撲かな,という。頭のよさそうな鶴竜のことだ。この一番をしっかりとからだに叩き込んでおくことだろう。そして,二度と同じ轍は踏まないことだ。それが強くなる秘訣だ。

それにしても,来場所からの白鵬と鶴竜の一番は楽しみだ。すでに,地力からすれば互角だ。やってみないことにはわからない,そういうカードとなった。日馬富士が大関に上がってきたときも同じことを感じた。白鵬と互角に相撲がとれる力士が現れた,とわたしは確信した。日馬富士の運動神経のよさとスピードがわずかに白鵬を上回り,一瞬で優劣が逆転する相撲がみられるようになり,とても楽しみにしていた。しかし,日馬富士のその後の怪我が尾を引いていて,まだ本調子ではない。しかし,今場所をみているかぎりでは8割かたもどってきたように思う。これからの優勝の行方は,このモンゴル出身の3力士が鍵を握ることになりそうだ。

千秋楽での鶴竜の反省点は「立ち合い」。どんなことがあっても立ち遅れないように,先制攻撃ができる立ち合いを身につけること。白鵬のように立ち合いの間合いを変えてくることも計算に入れて,相手をきちんと組みとめる立ち合いを磨くこと。そうなれば,栃東が絶好調だったころのような相撲がとれるようになるだろう。

先輩大関たちとは一味違う,いぶし銀のような,理詰めの相撲がとれるところが鶴竜の魅力だ。自分有利の体勢をつくるまで,とにかく我慢して,少しずつ相手の体勢を崩しながら,自分の得意の型に持ち込む。玄人好みの相撲を磨き上げていってほしい。大いに期待している。ひとりのファンとして。

まずは,おめでとう!大関鶴竜の誕生。
優勝を逃がしたのは,ほんとうに残念。しかし,この悔しさをバネにして,稽古に励んでほしい。そして,もっともっと強い大関になってほしい。その素質は充分にある。白鵬を引退に追い込むのは俺だ,くらいの気迫で。

来場所が楽しみだ。

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