2012年3月21日水曜日

『Q&A スポーツの法律問題』第3版がとどく。なんと,この本はじつに面白い。

スポーツの法律問題と言われるとわたしもちょっと腰が引けてしまう。法律というものにほとんど馴染みがないからだ。しかし,この本は面白い。あちこち拾い読みしてみて,そう思った。

「Q&A」という方式が成功しているのだろうと思う。具体的な「質問」があって,それに対する法律上の「応答」がわかりやすく具体的に書かれている。だから,どのページを開いても,ぐいぐいと引き込まれていく。

たとえば,こうだ。
目次の「Q1」には「21世紀とスポーツ」とある。「21世紀スポーツ文化研究所」を立ち上げて活動している人間としては,聞き捨てならない「Q」である。そこで,早速,そこを開いてみる。その「Q」には「21世紀はスポーツの世紀であると語られていますが,どのようにすればスポーツ文化が花咲く世紀となるのでしょうか」とある。

そして,それに対する応答が3ページにわたって書かれている。
よく読んでみると,とてもためになる。わたしはスポーツ史家としてのスタンスに立ち,「21世紀とスポーツ」を長い歴史的スパンから眺め返し,なにゆえに,いま,わたしたちはこのようなスポーツ情況に直面することになったのか,そして,それを超克していくためには,どうすべきかと考えている。しかし,この本は法律問題として「21世紀とスポーツ」を考えると,このようにみえてくる,という具体的な応答をしています。

その意味では,わたしの盲点をついている,と言って差し支えない。だから,この「Q」に対する応答を読んでみると,なるほどなぁ,と感心してしまう。つまり,ものごとを捉える立場が違うと,これほどまでに到達する結論が違うものなのか,と驚いてしまう。もっと言ってしまえば,法律の専門家からみると,「21世紀とスポーツ」はそんな風にみえてくるのか,と。

この「Q1」に対する「A」の小見出しは以下のとおり。
〇私たちを取り巻く状況
〇トップアスリートはがんばっているのにスポーツ組織は?
〇スポーツ省・スポーツ基本法そして国家戦略

これらの内容の是非論については,ここではひとまず措くとして,その結論部分だけは紹介しておこう。スポーツ基本法ができたのだから,それを強力に実施していくための政府機関として「スポーツ省」を設置すべきだ,と。そして,早急に,21世紀スポーツの国家戦略を展開すべきだ,と。なるほど,法律家の眼からみるとスポーツ基本法は,現実に,もはや動かしがたい事実として存在しているのだから,それを実行に移すべき政府機関としての「スポーツ省」を設置して,国家戦略を打ち出していくべきだ,というわけです。なるほどなぁ,と納得。

しかし,スポーツ基本法そのものが,いかなる根拠に基づいて作成されたものであるのか,という根拠については問おうとはしていません。ただ,アスリートや一般のスポーツ愛好者の位置づけが,これまで曖昧にされてきたけれども,その法的根拠を明確にしてくれたという意味で,大いなる前進であるとし,そこを法的根拠として21世紀のスポーツを推進すべきだ,と論じている。

とても面白いことに,大相撲問題も,もっと合理化して「旧態依然とした封建的な体質」から抜け出さないかぎり「大相撲の未来」はない,と断じている。この点は,わたしの見解とは大いに異なるところだ。いかにも法律家らしい断定の仕方をしていて,大相撲をいともかんたんに「近代スポーツ競技」と同じ文化と捉えていることが浮き彫りになっている。まあ,この議論は,いずれどこかでやるとして,なるほどなぁ,と考えさせられることが多い。

このほかのところも,拾い読みしていくと,わたしのこれまでの不勉強がそのまま露呈するばかりで,恥ずかしいかぎりだ。これは少し本気になって,立場の違いとはいえ,なにゆえにそのような見解にいたるのかは大いに勉強しておく必要がある,としみじみ思う。そして,最終的には,どうやら,「スポーツ」というものをどのように考えるか,という概念の問題にゆきつくように思う。そうしたことを確認した上で,一度,この本を書かれた「スポーツ問題研究会」の人びとと意見を交わしてみたい,と思う。

この本を届けてくださった辻口信良さん(スポーツ問題研究会代表)にこころから感謝。
なお,わたしも1ページほどの「コラム」を書かせていただいた。そんなチャンスを与えてくださったのも辻口さんだ。その意味でもお礼を申し上げたい。ありがとうございました。

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