2012年8月14日火曜日

女子サッカー・なでしこ対フランス戦,ホテルのテレビで今福さんと観戦。至福のとき。

  思い返してみれば,今回のロンドン・オリンピックはわたしにとっては遠い存在でした。その日程が第2回日本・バスク国際セミナーとかぶっていたとはいえ,それにしても,オリンピックを見ようという意欲がどこか欠けていました。なぜだろうかといろいろ考えてみますが,その理由はよくわかりません。興ざめの部分と感動の部分が相半ばしたからだろうか,と思ったりしていますが,どうもそれだけではなさそうです。このことについては、もう少し時間をかけて考えてみたいと思います。

 そんななかで,わたしが唯一,リアル・タイムでオリンピックをテレビ観戦したのは,6日の深夜(いや,7日の早朝)に行われた女子サッカーのなでしこ・ジャパン対フランス戦でした。しかも,ありがたい(ありえない)ことに今福龍太さんと一緒でした。

 8月6日(月)は第2回日本・バスク国際セミナーの初日でした。オープニングの特別記念講演で今福さんは「身体──ある乱丁の歴史」というタイトルでお話をされました。とても感動的な講演で,わたしたち研究者仲間が考えつづけ,求めつづけてきた「身体」をめぐる問題系というテーマを力強く後押ししてくれる内容でした。「身体はつねになにかを裏切り,逸脱し,思いがけない働きをするものである」という次第です。これで自信をもって,これからもわたしたちの研究がつづけられる,という勇気を与えてもらいました。ありがたいことです。

 この今福さんの特別講演につづいて,バスク側の代表者パレルバさんの基調講演が行われました。が,パレルパさんは欠席のためホセバさんが代読しました。そのあと,日本側を代表して,わたしの基調講演。テーマは「スポーツのグローバリゼーションにみる<功>と<罪>──伝統スポーツの存在理由を問う」というもの。今福さん,西谷さんを前にしての講演で,いささか力みすぎて,論旨がうまく展開せず,苦労しました。また,通訳を間に挟んでの講演ですので,なかなかリズムがつかめなかったということもありました。が,いずれにしても,実力以上のことを話そうとするからのことであって,その点は大いに反省しているところです。

 6日のプログラムはそこで終わり,あとは夕食を兼ねて懇親会。和食をメインにしたレストランで一室を借り切っての会食でした。お酒が入ると陽気なバスクの人たちはにわかに元気になり,おしゃべりで盛り上がりました。とくに,今福さんはスペイン語をなに不自由なく話される方なので,そのまわりはバスクの人たちが取り囲むかたちになり,楽しく会話がはずんでいるようでした。

 この会が終わってホテルへ。バスで移動。こういう集まりのときには,わたしの部屋が二次会の場になるのが恒例。なので,今福さんにも,もし,よろしければ部屋に遊びにきてください,と声をかけました。すると,少し遅くなるかもしれませんが,寄ってみます,という返事でした。わたしはメインの仕事が終わったので,すっかり気が楽になっていました。すぐに大勢の人で一時は部屋が満杯になりましたが,明日のプレゼンテーションのある人から順番に消えていき,あと数人が残っているところに今福さんが現れました。なんの話をしていたかは記憶にありませんが,いつのまにかサッカーの話になり,そういえばなでしこ・ジャパンがフランスともうすぐ対戦するよ,ということになりテレビをつけました。

 すぐに試合ははじまりました。が,立ち上がりは緊張のせいか,少しつまずいたりしていましたが,そのうちにパスがまわるようになり,次第になでしこペースになっていきました。フランスがなんだか慎重な立ち上がりをしてくれたお蔭で,日本ペースの試合展開になっていきました。みんな,だまって,真剣なまなざしでテレビの画面を見つめています。今福さんもほとんどしゃべることなく,じっと画面を凝視しています。気がついてみたら,日本が2点をとって前半が終了。この段階でみんななでしこの勝ちを信じたか,明日のセミナーもあることだし・・・ということで自分の部屋にもどっていきました。

 ひとりぼっちになったわたしも,明日のことを考えてすぐに寝ようとしました。が,いささか興奮していて眠れません。とうとう起き出してきて,後半戦もしっかりみることになってしまいました。後半は,フランスが捨て身で攻撃をしかけてきて,日本は防戦に追われます。そして,ついに,フランスのみごとな連携プレイで1点を失います。このあたりから日本も必死の攻防を繰り返します。とても迫力のある攻防がつづき,ついつい興奮してしまいます。

 フランスのバックスも上にあがってきて,大きなスペースができたところに日本のボールがでます。それを大儀見選手がドリブルで持ち込み,絶好のチャンスを迎えます。が,残念なことにシュートははずれてしまいます。ここは決めておくべきところだったのですが・・・。

 フランスも同じようにPKをとりながら,それをはずしてしまいます。
 が,わたしはいずれフランスに追いつかれ,延長線になるのでは・・・・,と思っていました。そうなると死闘が繰り広げられることになる。これは大変だ,とある程度は覚悟していました。が,日本はよく守って逃げきりました。

 翌日,休憩時間に,今福さんと全体の試合展開についていろいろとお話をすることができ,なるほど,今福さんはそんな風にみていたのか,という視点がいくつかあり,大変,勉強になりました。たとえば,フランスがPKをはずしたのは,前半の日本のプレスが効いていたからだ,と今福さんは分析します。PKは直接ゴールが狙える絶好のチャンスです。それだけに,それまでの試合の流れが選手たちの身体にプレッシャーとなってのしかかり,反乱をおこすことになりかねない,というわけです。意のままにならない身体が,突然,表出することになります。だからこそ,サッカーは面白い,というわけです。その他にも,いかにも今福さんらしいサッカー批評があって,至福のひとときを過ごすことができました。

 『ブラジルのホモ・ルーデンス』──サッカー批評原論(月曜社)という名著のある今福さんと,同じ部屋で深夜,サッカーの試合をみて,その論評を聞かせてもらえることになるとは夢にも思わなかったことでした。以前,一度,ブラジルのサッカーを見に行きませんか,と誘われたことがあり,なぜ,行かなかったのかと,いまにして思うと残念でなりません。今福さんの説によれば,ブラジルのサッカーこそ,その攻防がじつに美的で感動を呼ぶものだ,というのです。ですから,前線からつぶしにかかり,得点させないサッカーは邪道だと断言されます。その美しい攻防のあるサッカーを,いつか,見てみたいと,いまごろになって思うようになりました。

 いずれにしても,こんな経験ができたのも,第2回日本・バスク国際セミナーのお蔭というほかはありません。やはり,動いていないと出会いはやってこない,としみじみ思いました。

 こんど今福さんとお会いするのは奄美自由大学。9月7,8,9日。いまから楽しみ。

0 件のコメント: