2012年10月1日月曜日

「太極拳する身体」をつくること,初心者はそこからはじめます。(李自力老師語録・その19.)

 李老師:最近,ある健康体操の指導者(女性)から誘いがあって,当惑したことがありました。それは,ヨーガやテラピスやエアロビックスなどのプログラムのなかに太極拳を加えたいので協力してほしい,というものでした。しかも,全体で60分,そのなかの15分を太極拳で埋めてほしい,とのこと。もちろん,お断りしましたが・・・。

 わたし:とんでもない話ですね。太極拳がまったくわかっていない。ひょっとしたら,楊名時さんの健康体操としての太極拳のことを言っているのでしょうか。

 李老師:たぶん,そうだと思います。彼女の頭のなかには,太極拳は武術であるという発想はまったくありません。完全に健康体操の一種だと思っているようです。こういう人が多くて困ります。

 わたし:じゃあ,剣でも持たせて太極拳をやってもらったらどうですか(笑い)。あるいは,長拳でもやってもらったら?

 李老師:そんなことより,15分で太極拳を教えるという発想がまったく理解できません。たぶん,ゆっくりした動きなので,だれにでもすぐできると考えているのでしょうね。愛好者のなかには高齢者の方たちも多いことですし・・・。

 わたし:そうですね。わたしの周囲にも太極拳はかんたんだと思っている人がいっぱいいます。

 李老師:太極拳の稽古ははじめる前に,すくなくとも15分以上の準備運動が必要です。少し上級者になれば,30分はしっかりとアップして,太極拳のできるからだをつくります。それから太極拳の稽古に入ります。でないと,筋肉を傷めたり,怪我をしてしまいます。ゆっくりと動くということはとても大きな負荷がかかるということです。このことがわかっていない。困ったものです。

 わたし:太極拳は健康のためにいい,というキャッチ・フレーズが世間に広まりすぎているように思います。だから,みんな単なる健康体操だと思っているんですよね。太極拳だって,ほかの武術と同じで,やり過ぎればからだを壊してしまいますよね。わたしも,夢中になって稽古をやり過ぎたときがあって,からだが奇怪しくなったことがあります。そのときに,先生から「やりすぎ」といって注意を受けました。

 李老師:そうです。太極拳は上達するにつれて,太極拳をする身体ができあがってきます。それとともに稽古の時間や回数も増やすことができます。初心者は,しっかり準備運動してからでも,太極拳の稽古を15分もやればからだが悲鳴をあげます。それで,もう十分です。それ以上やると脚の筋肉を傷めてしまいます。ですから,まずは,じっくり時間をかけて太極拳をする身体をつくりあげることが大事です。ある程度,からだができあがってくれば,相当に無理をしても大丈夫になってきます。長時間の稽古にも耐えられるようになってきます。それまでは焦ってはいけません。いま,できあがっているからだのレベルでの稽古しかできません。それ以上の稽古を無理してやっても,ほとんど効果はありません。

 わたし:なんだか坐禅の話とよく似てますね。初心者が無理をして頑張って坐禅をしてもほとんど効果はないといわれています。道元さんは「修証一等」(しゅしょういっとう)ということを言っています。これは,修行と悟りとは「一等」である,つまり,ひとつのことで表裏一体なのだ,というわけです。悟りに応じた修行しかできません,と説いています。

 李老師:なるほど,よく似てますね。太極拳も徐々に,徐々にからだが出来上がっていくにしたがって,稽古の質も上がっていくということです。どの道もみんな同じことを説いていますね。老家思想も太極の思想も同じことを説いています。

 わたし:それはそうでしょうね。禅は,インドから伝わった仏教と老家思想や太極の思想と接触することによって生まれたと言われていますから,同じでなくては困ります。

 李老師:太極拳をするからだは,少しサボるとすぐにレベル・ダウンしてしまいますから,毎日,ほんの少しでもいい,自分のからだに合った稽古をつづけることが大事です。

 わたし:ありがとうございました。今日はこの辺で。

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