2013年2月8日金曜日

女子柔道のパワハラ告発についての斎藤美奈子さんのコラムがみごと。

 2月6日(水)の東京新聞・本音のコラムに文芸評論家の斎藤美奈子さんがみごとなコメントを寄せている。この人の文芸評論は,一種独特の視点があって,わたしは以前から注目して読んできた隠れファンのひとり。その斎藤さんが,女子柔道の今回の告発問題について,じつに的確な評論をしていて,やはりさすがだなぁと感心している。

 このコラムは短い文章なので,そのまま,紹介してみたい。そして,熟読玩味の上,みなさんのご意見も聞いてみたい。斎藤さんの文章は以下のとおり。

 女子柔道の日本代表選手が監督のパワハラを告発した件で,東京五輪招致への「影響が懸念」されているという。
 関係各位は火消しに躍起だ。下村博文文部科学相は「IOCの現地調査が入る来月までに信頼回復に努めよ」と指示。JOCは「スポーツ現場から暴力を一掃する」との緊急声明を発表。猪瀬直樹東京都知事は「非常に不愉快」だが,「全体への影響はない」と懸念を振り払った。
 しかし「影響が懸念」って何だろう。日本では不祥事が発覚するたびに組織の隠蔽体質が問題になる。もみ消しが横行するのは「影響が懸念」されるためである。
 一月,ロンドンを訪れた猪瀬知事は「東京の放射線数値は平常値」などと述べ,安全性をPRした。が,東京電力福島第一原発の事故は収束しておらず,日本は脱原発へのかじも切れていない。加えてこのパワハラ事件である。それでも安全だ,暴力は一掃する,で押し切るのは隠蔽以外の何物でもない。
 原発事故もパワハラ問題も解決には長い時間がかかる。小手先の手当てで済む話ではない。東京都はこの際,立候補を取り下げてはどうか。
 「影響が懸念」とはそもそも外づら重視の思想である。本気で選手を案じ,信頼回復を目指すなら内側の立て直しが先。足元の火事を放置して,わが家にお客を呼べると思う?」

 このわずかなコラムの枠のなかに,これ以上のメッセージを盛り込むことは不可能と思われるほど,コンパクトにみごとに問題の本質を暴き出している。コラムを書くお手本のようなみごとさである。しかも,スポーツの専門家ではなく,名うての文芸評論家のまなざしを全開させて,問題の所在のど真ん中に踏み込んでいる。

 この斎藤美奈子さんのコラムを全日本柔道連盟の幹部の人たちはどのように読みとるのだろうか。そして,どのような対策をとろうとするのだろうか。いまのところ見えていることは,残念ながら,必死の「もみ消し」しかない。

 「外部調査委 設置へ」「暴力問題 来月にも再発防止策」(全柔連),「悩み聞くシステムを」(山口香),などという見出しが新聞紙上に躍っている。なんだか「いつかきた道」にそっくりだ。いや,「いつも来る道」そのものではないか。大相撲問題,原発問題,東京電力問題,体罰問題,家庭内DV問題・・・・等々,枚挙にいとまがない。

 斎藤さんが主張していることは,世の中,なにか起きるとすぐに「もみ消し」に躍起になる体質のこと。そして,トカゲの尻尾切りでことを片づけようとする体質。ここに日本社会がかかえこんでいる重大な病根のひとつが潜んでいるということだ。

 このことを全日本柔道連盟の幹部の人たちは,どこまで「自分たちの問題」として理解しているか,それが問われているのだ。

 この際,15人の勇気ある選手たちの声が無駄にならないよう祈りたい。そして,これからも柔道界をよくするために,ねばり強く主張を展開してほしい。この人たちもまた「スポーツ的自立人間」への第一歩を踏み出した,柔道界の魁として,これからも支援していきたいと思う。

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