2013年7月5日金曜日

『読売新聞』社説 「尖閣問題を紛争のタネにするな」(1979年5月31日)を読む。エッ? まさか?

 びっくり仰天するような「社説」に出会いましたので,紹介したいと思います。ブログの見出しにも書きましたように「尖閣問題を紛争のタネにするな」と,こともあろうに『読売新聞』の社説が主張していたという事実です。1979年5月31日。この時代には,『読売新聞』ですら,こんなに「健全な」主張を社説をとおして展開していた,ということを知り驚いた次第です。それに引き比べ,いまの大手新聞の堕落ぶりには呆れ果ててしまいますが・・・・。

 ネタ元は,『「対米従属」という宿痾』(鳩山由紀夫,孫崎亨,植草一秀共著,飛鳥新社,2013年6月27日刊,P.136~138)。この話がでてくる節の見出しは「尖閣問題の出発点は田中角栄・周恩来間の棚上げ合意」というものです。

 問題の社説には,つぎのようなことが書かれている,と孫崎亨氏が丁寧に紹介し,問題の本質がどこにあるのかを鮮明にさせています。その要旨は以下のとおりです。
 「日中双方とも領土主権を主張し,現実に論争が”存在”することを認めながら,この問題を留保し将来の解決に待つことで日中政府間の了解がついた。それは共同声明や条約上の文書にはなっていないが,政府対政府のれっきとした”約束ごと”であることは間違いない。約束した以上は,これを順守するのが筋道である」,と。

 この社説については,該当ページ(P.137.)に写真も乗せ,巻末には全文が資料として掲載されています。この事実を確認した上で,さらに3人の意見交換がそのあとにつづきます。とてもスリリングで,重要な内容がふくまれています。ぜひ,ご一読いただければ・・・と思います。


 そこでの議論の入り口のところを紹介しておきますと,以下のとおりです。

 日本政府の主張は,「尖閣列島は”先占の法理”によって日本の領土になっており,中国も1970年代までは文句を言ってこなかった」の一点張り。

 この点について,孫崎亨氏がきわめて重要な指摘をしていますので,少し長いですが,紹介しておきたいと思います。

 「日本政府は1895年に,尖閣列島にはどの国の主権も及んでいないという10年間の調査の結果をふまえて,これを日本の領土だと宣言します。これが”先占の法理”と言われるものですが,この”先占の法理”とは,ある時期の植民地支配の理論でもあるわけです。例えば,中東遊牧民のベドウィンが歩いているような地域は,誰の支配も確立していな無主の地であるから,先に宣言した欧州列強の領土であるという理論だったわけですが,この理論は,いまでは国際司法上はあまり大きなウェイトを占めていないと思います。中国は,明,清の時代,周辺地域に対して非常に大きな影響力を持っていました。例えば,日本の海賊である倭寇(わこう)を討伐する人間が任命されたりしている。ということは,この地域が無主の地ではなく,中国が公権力を及ぼしていた事実があるとも考えられるわけです。
 いずれにしても田中角栄,周恩来による日中国交正常化交渉の中で,『日中双方とも領有を主張し,現実に論争が存在することを認めながら,この問題を留保しようということで棚上げになった』わけです。さらに,この”棚上げ”の確認は,周恩来の時代とトショウヘイの時代,二度にわたって行われています。」

 こうした事実確認をした上で,鳩山由紀夫,孫崎亨,植草一秀の三氏による鼎談は佳境に入っていきます。われわれには隠されていた,さまざまな事実関係が,この三氏によってつぎつぎに明らかにされていきます。とりわけ,鳩山由紀夫という血統書つきの政治家が徹底的に標的にされて,メディア・バッシングがくり返されてきたことの背景が浮き彫りになるという点で,きわめて刺激的です。なぜ,これほどまでに鳩山由紀夫という政治家が「宇宙人」だの,「言った,言わない」だの,「嘘つき」だのとメディアに叩かれるのか,わたしには不思議でした。やはり,鳩山由紀夫という政治家はよほど奇怪しいに違いない,と思い込まされていました。

 しかし,この本を読むと,眼からウロコが落ちるようにして,その背景がみえてきます。ひとことで言ってしまえば,圧倒的多数の政治家や財界のリーダーたちが「対米従属」によって獲得してきた既得権益を死守しようとするのに対して,鳩山由紀夫は,「対米自立」をめざし,既得権益を打破して,友愛の精神にもとづく政治の理想をかかげ,国民主権の政治の実現をめざすことにあるからだ,ということになるでしょうか。わけても「東アジア共同体」の理想をかかげたことがアメリカおよび「対米従属」派にとっては許しがたいことだったようです。ですから,既得権益派は徹底して鳩山由紀夫排除のためにあらゆる手段を用いたということなのでしょう。

 そうしたメディア報道に,圧倒的多数の日本人は間違いなく「洗脳」されてしまいました。わたしもそのうちのひとりであったことを正直に告白しておきましょう。ですから,だれもが鳩山由紀夫=宇宙人と思い込んでいます。しかし,そうではない,ということがこの本をとおして明らかになってきます。つまり,鳩山由紀夫=宇宙人は,メディアがでっちあげた「嘘」と「詭弁」であり,そうすることによって政治の世界から葬り去ることが目的であった,と思い至ります。

 断っておきますが,私自身は,この本に書かれていることがすべて正しい,と言うつもりはありません。そうではなくて,これまでの支配的なメディアが流してきた鳩山由紀夫バッシング情報と,この本のなかでしっかりとした事実関係を確認しながら論を展開していく三氏の議論の両方を,読み比べることが大事だ,と言いたいのです。つまり,両方の意見のあまりの隔たりが,どこからくるものなのか,素直に耳を傾けながら,みずからの思想・信条(心情も)にもとづく結論を導き出すこと,そのための,きわめて重要なテクストとしてこの本を紹介したい,ということです。

 わたしたちは,いまや,あらゆるメディアをとおして,ほぼ完璧に「メディア・コントロール」されてしまっています。そして,無意識のうちに思想・信条までもがコントロールされつつあります。そこを突き抜けるための「メディア・リテラシー」を身につけることが,いま,もっとも求められており,ひとりの人間としての基本的な能力として不可欠である,と考えています。このことは,昨日のブログにも書いたとおりです。

 しばらくの間は,この本を手放すことはできそうにありません。それほどの説得力を,いまのわたしにはもっています。

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