2013年7月8日月曜日

稀勢の里の綱取りはなるか。日本人横綱誕生の期待に応えられる「こころ」ができているか。

 稀勢の里が一回で立てなかった。豪風が2回もつっかけることになり,ひたすら豪風が土俵下の審判委員に頭をさげるシーンがテレビに映った。しかし,わたしの眼には,立ち合いのタイミングをはずしたのは稀勢の里にある,とみえた。タイミングをはずしたというよりは,むしろ,稀勢の里は「立てなかった」のではないか,とみた。

 綱取りのかかった場所の初日。緊張するのはとてもよくわかる。とにかく初日に勝って流れをつくりたい・・・これは綱取りの力士にかぎらず,だれも同じ。いずれにしても,この場所を占うことになる初日の勝ち負けは重要である。だから,どの力士も真剣そのものの顔をしている。だから,初日の相撲は面白いのだ。よほどのことがないかぎり,初日に八百長を仕掛ける力士はまずいない。だから,この場所の活躍を占うことができるのは初日,とわたしは考えてきた。

 その意味で,今日の稀勢の里の相撲は注目した。相手の豪風は小兵ながら,脇を締めて相手の腕を挟み付けるようにして前にでる,そして,相手の力を真っ正面から受けた瞬間に,その力をかわして逆襲にでる,それがかれの相撲だ。そんなことは稀勢の里は百も承知。だから,どのような相撲をとるか,は事前に充分に考えてきたはずだ。にもかかわらず,一回で立てない。いかにも慎重に仕切っているようにみえたが,どう考えても豪風の仕切りについていかれない精神状態にあったのではないか,とわたしはみた。だから,とても不安だった。

 わたしの眼には,なぜ,稀勢の里はあのタイミングで立たないのか/立てないのか,と不思議だった。やはり緊張しているんだ,とみた。その理由は,3回目も前2回とほとんど同じような流れの仕切りで,稀勢の里が立つという意志を露にして,ようやく立ち合いが成立。つまり,2回の仕切り直しの間に,稀勢の里は自分の気持ちの整理をしていた,とわたしはみた。

 あとは,小兵の豪風を徐々に,徐々に圧力を加えて自分有利の体勢をつくり,寄り切った。これで,稀勢の里はプレッシャーから解き放たれて,明日から,もっといい相撲をとることになるであろう。しかし,あえてここで苦言を呈しておくと,以下のとおり。

 今日の立ち合いをみるかぎりでは,右で張っておいて左差しに行った。しかし,右の張手は空振りだった。こんなことを稀勢の里がやるとは,わたしは思ってもいなかった。だから,やや意外だった。その結果,腰高の立ち合いになってしまった。でも,これは小兵の豪風にはよかった。いつもの稀勢の里のように一気に相手に圧力をかけて前にでる相撲ではなかったので,豪風はなすすべもなく徐々に,徐々に圧力を加えられて,最後は左四つの稀勢の里の得意の型に入って,勝負あったとなる。

 今日の相撲に味をしめてしまうと,前半戦はこれでいいかも知れない。しかし,後半戦はそうはいかない。たとえば,先場所の琴奨菊戦のように,腰高のまま立ち合い,相手の圧力を真っ正面から受けることになり,あっという間に押しこまれてしまうことになりかねない。ましてや,横綱戦ともなれば,相撲の中味がまったく違う。だから,できるだけ低い姿勢の立ち合いで,まずは,相手のでてくる圧力を受け止め,そこから自分得意の型に持ち込む,そこがポイントだ。

 さて,今場所の稀勢の里のゆくえはどうか。とにかく,初日に勝てたので,あとは気分よく連勝を重ねてほしい。しかし,上位との対戦を考えて,立ち合いの姿勢と,得意の「左」をどのように使っていくか,しっかりと試していくことが不可欠だ。そして,この得意の「左」で上位を制することができたとき,綱取りが実現するだろうと,期待している。

 この「左」を活かすも殺すも,あとは稀勢の里の「「こころ」の問題。ここが横綱になるための最後のハードル。ここをどのようにして越えていくか,横綱になれる力士となれない力士の違いだ。でも,過去の横綱たちはみんなここを通過していったのだ。さて,稀勢の里はどのようにしてこの「こころ」の問題をクリアしていくのか,楽しみはむしろこちらにある,とわたしはみている。勝ち負けを度外視して,自分の相撲を取りきる,そこに徹することができるようになったとき,「綱」がみえてくる。

 稀勢の里の相撲に関しては,わたしは,これまでとても辛口の批評をしてきた。それは,いまも変わらない。なぜなら,これまでの稀勢の里に日馬富士や白鵬を圧倒するだけのパワーがあるか,と問われれは「ノー」としか答えようがないからだ。稀勢の里よ,あわてることなかれ,日馬富士と白鵬を圧倒するだけのパワーを身につけてからでいい。その方が日本相撲協会の隆盛のためにいい。正統派大相撲ファンを納得させる横綱になってほしい。

 さて,あと14日間,楽しみである。

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