2014年1月27日月曜日

ことしの「山焼き」(奈良・若草山)は最高のできばえ。感動。

 ことしの山焼きの日は1月25日(土)。毎年,1月の第4土曜日が奈良・若草山の山焼きの日。かつては成人の日に行われていましたが,最近では第4土曜日に固定されました。そして,この日はわたしの第二の故郷である奈良にお里帰りする日。奈良教育大学に勤務していたころの卒業生たちとの約束である。以後,すでに,25年もつづいている。

 1月25日の奈良の天気は,午前中晴れ,午後からうっすらと雲がでてきましたが,とても暖かい穏やかな日和。山焼きの日としては珍しく暖かい。奈良には19年間,住んでいたので,その間を合わせると44年間もの間,山焼きを眺めてきていることになる。その間,こんなに暖かかったことはない。風もほとんどない。静かな小春日和。夜になっても変わらなかった。

 この天候が幸いしたのか,若草山の枯れ草の乾き具合がちょうどよかったのか,この44年間,山焼きを眺めてきたわたしの感想では,「過去,最高の山焼き」でした。ちょっと文句のつけようのない,ほぼ,完璧な山焼き。

 いつものように,午後6時を過ぎると,とても古典的な打ち上げ花火が上がりました。この花火は都会の,たとえば,隅田川や二子玉川などであげられる近代的な花火とは一味違います。まことに,古都奈良にふさわしい穏やかな,昔ながらの花火です。これを眺めると,ああ,奈良だなぁ,と感傷的になってしまいます。

 その間に,点火する人たちの松明が点々と山全体を覆うように配置されます。少しの間,静かな時間が流れます。そして,満を持していたかのように,点火が始まります。ことしは,とても静かに,厳かに燃えはじめました。なんとなく荘厳の気配が流れました。それほど大きな炎をあげることもなく,かといって火が消えて途切れることもなく,全体が足並みを揃えたかのように着実に燃え広がっていきました。

 若草山は別名・三笠山。三つの笠が折り重なっているようにみえるからです。それを,仮に手前の低い山から順に,第一の笠,第二の笠,第三の笠,と呼ぶことにしましょう。

 まず,ことしの山焼きの点火は第一の笠から始まりました。いつもだと第二の笠も,第三の笠も一斉に点火されるのがつねでしたが,ことしはそうではありませんでした。が,ことしは,一工夫あったらしい。枯れ草の乾燥の具合,風の吹き具合(強弱と風向き),などさまざまな条件によって山焼きはさまざまな顔をみせます。それよりなにより,もっとも注意されているのは,火が大きくなりすぎて事故につながらないように,ということだと聞いています。

その点でも,ことしはさまざまな条件が整っていたようです。風はほとんどなし。煙はまっすぐに上に昇っていきます。ですから,燃えている景色がそのまま丸見えです。写真を撮るとうまくいくだろうなぁ,と想像などしていました。

 第一の笠に点火されると,下からゆっくりと炎が広がり徐々に上に上がっていきます。それが,みごとに足並みを揃えるかのように,横一線で,上に上がっていきます。こんな山焼きは初めてでした。この第一の笠の点火と同時に,第三の笠の上の方の三分の一くらいのところから横一線に点火されました。こちらは急斜面ということもあって,一気に頂上に向かって燃え上がりました。すると,こんどは三分の二くらいのところから点火です。そして,最後に一番低いところからの点火でした。これは,たぶん,第三の笠の一番下から点火すると,上の方の炎が大きくなりすぎるという判断があったのではないか,と思います。

 こうして,第一の笠と第三の笠が燃え終わる直前くらいに,こんどは第二の笠に点火されました。正面からみると,やや見えにくい部分です。が,わたしたちが毎年,眺めるスポットは特別席です。あまり詳しくは書くことができませんが,ある建物の屋上から眺めています。そこからですと,この第二の笠の燃え具合も半分くらいは見届けることができます。この第二の笠がとてもゆっくり,ゆっくりと燃えていきます。その間,こんどは,第一の笠の裏側の谷間の炎が大きくめらめらと燃え上がってくるのが,時折,見えます。ああ,裏側も順調なのだ,と推測しながら,まさに山焼きを堪能することができました。

 ことしの山焼きは「アート」だ,と驚きました。すべての炎が納まるまで,じっと立ち続けていました。それほどに,みごとで,わたしの眼を釘付けにしてくれました。この山焼きは生涯忘れることはないでしょう。それこそ,ビデオで撮影しておきたかったくらいです。でも,わたしの網膜の裏側にはしっかりとこの情景が焼きついていますので,いつでも,リアルに思い出すことはできると思います。その方が,たぶん,美しいに違いありません。

 こんなみごとな山焼きに出会うことができた幸運を,「聖なるもの」に全身全霊を籠めて感謝したいと思います。もう,二度と,こんなにみごとな山焼きに出会うことはないでしょう。それほどのみごとさでした。天に向かって,あらゆる謝辞を述べたい,そんな気分になりました。

 人為と自然との,この素晴らしいマッチング。

 これぞ,これからの,わたしたちが目指すべき理想像のひとつではないか・・・・などと妄想しながら山焼きに別れを告げ,夜の部の懇親会に向かいました。
 

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