2014年2月14日金曜日

ああ,テレマーク!沙羅ちゃん,胸を張って帰っておいで。

 実力半分,神様半分。スキーのジャンプ競技はそういう競技です。だから面白いのです。いまどきのスポーツにこんな不確定要素を残したままの競技は珍しい。それだけにとても価値のある競技種目である,とわたしは高く評価しています。

 かつて,あの原田選手が団体戦で,一回目のジャンプは追い風で失速して距離が伸びず,苦戦を強いられることになりましたが,二回目のジャンプで驚異的な大ジャンプをみせ,大逆転をして多くの人を大感動させたことは,いまも忘れることはできません。当時,絶好調だった原田選手をもってしても,追い風に叩き落とされてしまってはどうにもならないのです。試合後の原田選手の談話がまたみごとでした。「ジャンプという競技はこういうものです。実力半分,神様半分」と。

 わたしは以前から,ジャンプ競技は飛んだ「距離」だけで優劣を判定すればいい,と主張してきました。なぜ,テレマーク姿勢で着地しなくてはならないのか,なぜ,飛型点なるものが必要なのか,そして,なぜ,ウィンドファクターを加味しなくてはならないのか。もちろん,そこには長い歴史過程があることも知っています。しかし,単純に競技を見て楽しむファンとしては分かりやすい方がいい。ルールを複雑化して,点数が発表されるまで,その「できばえ」が分からない,などというのは面倒です。第一,ジャンプ競技が「採点競技」となり,「点数化」されてしまうということ自体が,わたしからすれば茶番です。

 テレマーク姿勢についてもいいたいことは山ほどあります。が,ここでは禁欲的につぎのことだけ書いておきます。テレマークはスキーのジャンプをして子どもたちが遊んでいた地方(ノルウェー)の名前にすぎません。そして,その地方での独特のスキーのターンの仕方がこのテレマーク姿勢だった,というだけの話です。ですから,ジャンプの着地姿勢と「テレマーク」はなんの関係もありません。だれかが単なるメモリアルとしてこの着地姿勢を定めたにすぎません。それも,飛距離が10メートルとか15メートルというレベルで競われていた時代の話です。

 それが,いまや,100メートルを越えるジャンプは当たり前の時代に入りました。優勝するためには,K点を越えなくてはなりません。しかも,そのK点を越えると「平地」になってしまいます。100メートルもの距離を飛んできて「平地」に着地するのに,なぜ,テレマーク姿勢でなくてはならないのか,かえって危険ですらあります。

 それを克服すべく沙羅ちゃんは必死になってトレーニングを積み,ようやく今シーズンは安定してきました。それが今シーズンの連戦連勝の成績です。が,最後の最後で,神様のいたずらに遭遇することになりました。「追い風」という,これは神様の領域の話です。ですから,沙羅ちゃんがテレマーク姿勢に入るタイミングをほんの少しだけ狂わせてしまった,というわけです。これは仕方のないことです。これが,ジャンプという競技の宿命でもあります。つまり,なにが,いつ,起こるかはわからない。神様のみが知っている,という次第です。だからこそ面白いのです。

 沙羅ちゃん。どうぞ,堂々と胸を張って帰っていらっしゃい。メディアも暖かく迎えてやってください。わたしたちみんなも,沙羅ちゃんの健闘をこころから讃えましょう。なんといったって,沙羅ちゃんはいま世界一のジャンパーなのですから。







 

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