2014年4月9日水曜日

笹踊り・考。朝鮮通信使との関係について。

 ことしも笹踊りの季節がやってきました。『穂国幻史考』の著者・柴田晴廣さんから,この季節になると笹踊りの写真が送られてきます。ことしもきれいな写真を送ってくださいました(前回のブログに掲載)。笹踊りの特徴を絶妙なタイミングでとらえた素晴らしい写真です。わたしの育った村祭りでも笹踊りが伝承されていて,毎年,楽しみにしていたものです。このことを知っている柴田さんは親切にわたしに写真を送ってくださるという次第です。

 笹踊りは穂国(ほのくに・愛知県東三河地方の古称)のほんの限られた地方にのみ伝承されている伝統芸能の一つです。詳しいことは柴田さんの著書『穂国幻史考』にゆずることにして,今回は,朝鮮通信使との関係について,少しだけわたしの頭のなかにみえてきたイメージについて書いてみたいと思います。

 笹踊りと朝鮮通信使との関係については,柴田さんも著書のなかで書かれていますように,ほぼ間違いはないと思います。が,朝鮮通信使が江戸に向かう途中で,東海道を練り歩いたとされる,その情景がわたしにはいまひとつイメージが湧いてきませんでした。ですから,朝鮮通信使に関する専門書にあたって,「練り歩き」の実態を確認してみたいと考えていました。が,ついつい後回しになっていて,いまだにそこまで手がまわりません。

 そんななかで,雑誌『世界』の4月号で,寺島実郎さんが連載「能力のレッスン」(144)──「朝鮮通信使」にみる江戸期の日朝関係──17世紀オランダからの視界(その21)を書いていることを知り,飛びつきました。もちろん,笹踊りのことはなにも書いてはありませんが,朝鮮通信使の「練り歩き」について興味深い描写をしています。そこにはつぎのようにあります。

 「一行の楽団パレードは多くの日本人に衝撃を与え,唐人行列,唐人踊,馬上才(曲馬)は今日の韓流ブームどころではない人気を博して各地の行事や芸能に影響を残した。興味深い偶然もあった。第四回使節(1636年)の行列を江戸参府中のオランダ商館長クーケパッケルが目撃し,『行列が通り過ぎるのに五時間かかった』と記述している。オランダ商館長一行の参府は,あくまで株式会社の地域代表の表敬訪問だが,朝鮮通信使は国家を代表する外交使節であった。」

 こんな記述に出会いますと,なるほど,穂国の人びともまた東海道を練り歩く朝鮮通信使の行列(約500人といわれる)に惹きつけられ,じっと見入っていたんだろうなぁ,というイメージが鮮明に浮かんできます。いまに伝わる笹踊りの衣装のきらびやかなデザインは,往時の影響を如実に写し取っているものと思われます。

 1636年といえば,関が原の戦い(1600年)が終わってようやく天下統一がなり,平和が訪れ,人びとのこころもようやく安らぎがえられたころと言っていいでしょう。そんなときに,朝鮮通信使が歌舞音曲とともにきらびやかな衣装に身をかため,500人もの大行列が練り歩いた,というのですから,それはそれは大騒ぎだったことでしょう。東海道からかなり離れた地方からも大挙して見物に集まってきただろうことは容易に想像ができます。

 さきの引用から推察すれば,「唐人踊」が,いまわたしたちが目にする笹踊りの原型のようです。だとすれば,朝鮮通信使の「唐人踊」がどのようなものであったのか,これを調べればもっとイメージがはっきりしてくるということになります。

 同じく引用にあるように「行列が通り過ぎるのに五時間かかった」という描写もまた興味を引きます。いま行われている笹踊りも,一つところを行ったり戻ったりして,なかなか前には進みません。わたしの寺の前の道路は村のメイン・ストリートにもなっていましたので,そこでは必ず笹踊りが行われました。たった,50メートルほどの門前を通過するのに相当の時間を要しました。笹踊りの人は大変だなぁ,と子どもごころにも思ったものです。

 それともう一点は,穂国の人びとが,たとえば,この唐人踊にほかの地方の人びと以上に強いシンパシーを感じたのはなぜか,という問題があります。穂国には花祭りのような伝統芸能を筆頭に,三河漫才など,数々の伝統芸能が伝承されています。わたしの子どものころの村祭りでは,村の若い衆が歌舞伎を演じていました。わたしの育った寺はその稽古場でした。近隣の村には少女歌舞伎が盛んに行われていました。考えてみれば,穂国は伝統芸能の宝庫のようです。

 そんなことを考えながら,柴田さんの送ってくださった写真を眺めていますと,その写真の向こうに隠れているさまざまなイメージが際限もなく湧き上がってきます。幻視の悦び。至福のとき。やはり,子どものころに触れた祭りは,いまごろになって生き生きと蘇ってきます。やはり,いいなぁと思います。柴田さんに感謝。

〔追記〕
冒頭の「笹踊りの季節がやってきました」という書き出しについて,柴田さんからコメントが入りました。笹踊りはたしかに春が多いけれども,秋にも盛んに行われていること,また,夏にも行われているので,春を「笹踊りの季節」と断定することにはいささか違和感がある,とのことです。わたしは子どものころの記憶で,どこの笹踊りもみんな「春」だと思い込んでいました。わたしのブログはその程度のものであることをお断りし,ここでも柴田さんに感謝です。

 

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