2014年7月21日月曜日

J-P・デュピュイによるサッカーW杯ブラジル大会についてのコメント(森元庸介・談)。

 19日の「ISC・21」7月東京例会・第二部の最後のところで,ちょっと意表をつく面白い話題が展開しました。それはJ-P・デュピュイの人柄についての話題でした。そのきっかけをつくったのは,西谷さんと高校時代からの友人であるFさんでした。

 Fさんは,西谷さんのお話を聞いて,J-P・デュピュイについての疑問の多くは氷解したので,とてもありがたかった,と述べた上で,J-P・デュピュイとはどんなお人柄なのか,それを知りたいと注文を出しました。わたしとしては,あっ,そうか,と納得はしましたが,いささか意表を突かれた思いでした。つまり,とてもいい問いだ,という意味です。それを受けて西谷さんは,とてもフランクで,偉ぶるところがなく,気さくに話ができる人で,わたしとしては多くの点でシンパシイを感ずる,とてもいい人だと思っています,と応答。そして,フランスには大御所と呼ばれている著名な学者がたくさんいますが,そのほとんどの人たちがそれなりに偉ぶった態度をとっているが,J-P・デュピュイはそれらの人たちとはまったく違う種類の,ごく普通の人間です,と。しかも,ざっくばらんです。ですから,むかしからの顔なじみであるかのように,初対面から親しげに会話のできる人です,と。しかし,こと研究に関してはとても繊細な一種独特の感覚をもっていて,きわめて厳格な真理の探求者です,と応答。

 つづけて,訳者のお一人である渡名喜庸哲さんは,J-P・デュピュイさんが日本に来られたときに,行動を共にしたときのお話をしてくださいました。たとえば,大きなトランクを持ちましょうというと,いや,大丈夫だ,と言って自分で運んでいたこと,寿司が大好きで,それもスーパーで売っている寿司を「とても美味しい」と言って喜んで食べていたこと,というエピソードを語ってくださいました。

 最後に,同じ訳者のお一人である森元さんが,ちょっと話題からずれるかもしれませんが,と前置きして,つぎのような話題を提供してくださいました。それは,デュピュイがフランスの新聞「ル・モンド」に書いたサッカーW杯ブラジル大会に関する記事の話でした。デュピュイの奥さんはブラジルの人ですので,フランスとブラジルの間をしばしば往来していて,ブラジルのサッカーについても熟知しているのだそうです。ですから,フランスのメディアや知識人たちが,ブラジル人はW杯に金を使うよりも教育や医療に金をまわせ,という主張が根強くあると物知り顔でいうが,そんなプロパガンダに乗せられている愚かさを「ちゃんちゃら可笑しい」と痛烈に批判している,と。ブラジル人にとってのサッカーはフランス人のような趣味的な娯楽といったレベルの問題ではなく,サッカーは日々の生活を活性化させる生きがいなのだ,そのことが少しもわかっていない,と。さらに,ブラジルは治安が悪く,殺人事件も多い,とメディアが報じているが,これも大きな間違いだ,という。そして,殺人事件のほとんどは名誉や愛情のもつれから起きているのであって,それはむしろ称賛すべきことだ,と書いている,とのことです。しかも,こんな悪しきプロパガンダがさも当然であるかのごとく出回っていること自体が問題だ,とも。こんなところにも,デュピュイの面目躍如たるものがみてとれる,と森元さんは仰る。

 そういえば,日本のメディアも識者も同じようなプロパガンダを垂れ流しています。ですから,わたしも恥ずかしながら,ブラジルは治安が悪く,W杯開催よりも教育・医療に金を使うべきだ,という情報を信じていました。ですから,森元さんのお話をうかがって,びっくりでした。これからはもっと慎重であらねば・・・と深く反省させられました。

 これらのお話は,デュピュイ理解のためには,とても重要なお話だと思いました。これで,デュピュイという人物がテクストから受ける謹厳実直な学者さんという印象と同時に,日常生活のレベルではとても身近に感じられる,親しささえが感じられるようになりました。その意味で,Fさんの問いはクリーン・ヒットだった,と感謝しています。

 こんなことを知った上で,もう一度,テクストを読んでみたら,また,違った発見があるのではないかと楽しみになってきました。

 以上,もうひとつのJ-P・デュピュイの顔についてのご報告まで。

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