2014年7月22日火曜日

国際シンポジウム「都市と建築の美学──新国立競技場問題を契機に」(主催・美学会)を傍聴してきました。

 表題のシンポジウムがあるということを20日の橋本一径さんのFBで知りました。新国立競技場問題を美学会がとりあげ,国際シンポジウムをやるということに,わたしはある種の衝撃を受けました。美学会が,どのようなアングルからこの問題をとりあげ,議論しようとしているのか,いまひとつピンとこなかっただけではなく,その美学会までもがこの問題をとりあげ,その問題の所在を明らかにしようとしているという事実に,少なからぬショックを受けました。

 なぜなら,わたしの所属しているスポーツ史学会の理事会が,この問題についてどのような関心を示しているか,そして,どのように対応しようとしているか,という議論がなされているのだろうか,と。少なくとも,現段階ではそのような議論があったとは聞いていないからです。もちろん,わたし自身もスポーツ史学会理事会に対してなんの働きかけもしてこなかったことに,いささか後ろめたさを感じないわけにはいきませんが・・・・。

 ならば,いまからでも遅くはないではないか,と。美学会がとりあげてくれているのに,スポーツ史学会がなにもしないでいていいのだろうか,と。

 そんなことを考えながら,会場の東京大学文学部法文二号館一番大教室に押っ取り刀で駆けつけました。目玉は槙文彦さんの基調講演「都市から建築を,建築から都市を考える」と司会の岡田温司さんの議論の裁き方,と狙いを定めていました。そして,美学という視点から新国立競技場問題がどのように分析されるのか,3人のシンポジストにも期待してでかけました。



 予想どおり,槙文彦さんのお話はみごとでした。建築家の立場から,きわめて冷静に,わかりやすく問題の所在を明らかにされ(これまでに書かれた論文で承知していましたが,それにもましてみごと),原案を一度,ご破算にして,仕切り直しをすべきだ,と提言されました。そして,最後に,この原案で建て替えがなされるとすれば,これは「日本の悲劇」である,と。そして,同時にこれは「外国の喜劇」である,と。

 槙文彦さんのお話の内容を,いま,ここで書くにはスペースが足りませんので,また,機会を改めて書くことにします。問題の根幹だけ書いておきますと,コンペの募集要項からしてまことに「雑」であったこと,加えて審議過程もいい加減,その意味では最優秀賞に選ばれたザハさんは被害者だ,ということ。そして,この責任をとる人を特定できない(みんな責任逃れをして,おれではない,と他者になすりつける体質・体制に大きな問題がある)こと。これはこんにち展開されている政治の手法とそっくり同じだ,とも。

 司会の岡田温司さんとは久しぶりの対面。数年前に神戸大学で開催された日本記号論学会でお会いして以来のことです。そのときの学会のテーマは「判定の記号論」。で,裁判,宗教,スポーツの三つのセクションのうちの,岡田さんは宗教のセクション(「最後の審判」)で,わたしはスポーツのセクション(「スポーツの判定」)で問題提起をし,議論をさせていただきました。そのときの岡田さんの機関銃を撃ちまくるような,猛烈なスピードでまくし立てる語りが強烈な印象として残っていました。そして,その後の数年の間に,どれだけの著作を世に問うたことか,その驚異的なご活躍に驚きもし,畏敬の念をいだきもし,別格の注目をしてきました。

 そんなご縁もあって,岡田さんの司会者としての裁きぶりを期待していました。記号論学会のときには,派手なシャツに真っ赤なパンツ,そして,しゃんとした姿勢と溌剌とした歩き方をなさっていました。が,この数年の間の時間が岡田さんに大きな変化をもたらしたようで,わたしにはまるで別人にみえました。個性的な頭髪とくりくりとした目は以前のままでしたが,髭をつけ(これがシルバー),黒ぶちの眼鏡をかけ,おしゃれなスーツ姿で身を固め,相変わらず格好よさが目立ちましたが,なんと背中が丸くなっていて,話し方も物静か,いささか意表を突かれた思いでした。つまり,ごくふつうの学者さんになりきっていらっしゃる,と。

 ですから,槙さんの素晴らしい基調講演につづいて登壇したシンポジストたちの,こんな言い方をするとまことに失礼ではありますが,あまりに凡庸な話の内容とそれにつけた司会者としてのコメントもありきたり。なかには,わたしとしては許しがたい発言をされたシンポジストもいらっしゃいました。もちろん,じっとがまんして耳を傾けましたが。結論だけ述べておけば,「美学」の視点がどこにも見当たらない,ひたすら,自分の専門領域の,狭い砦のなかに立て籠もった立ち位置からの発言ばかりでした。しかも,これらのシンポジストのなかには美学の専門家はひとりもいらっしゃらない,という不思議な構成になっていました。

 わたしは大いに失望。ただ,槙文彦さんのお話をうかがうことができたことだけが大いなる収穫でした。このお話だけを,別途,このブログで紹介したいと思います。とりあえず,今日のところは,ざっくばらんなわたしの傍聴印象記ということでお許しください。

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