2014年12月30日火曜日

「スポーツ学」とはなにか。その3.三つの研究領域について。

 総論で書きましたように,「スポーツ学」には三つの研究領域があります。すなわち,スポーツ実践学,スポーツ科学,スポーツ文化学,の三つです。総論では,スポーツ学を学ぶ学生さんを想定して書きましたので,わかりやすくするために,この三つの研究領域を,スポーツ実践学⇨スポーツ科学⇨スポーツ文化学の順に,一つの流れとして説明をしました。

 しかし,スポーツ学を学び,研究する立場に立てば,この三つの研究領域は,かならずしも一つの流れではありません。むしろ,三位一体となっていて,お互いがお互いを支えあっている関係にあります。つまり,各研究領域の知見をお互いに比較検討し,そこから新たな問題を見出し,フィードバックして,それぞれ固有の研究領域ごとにさらなる研究を進める,そういう関係にあります。

たとえば,スポーツ実践学という研究領域を考えてみましょう。具体的には,サッカーとか,テニスとか,水泳といった競技種目別にスポーツが実践されます。それらの競技種目を研究対象として考える場合には,サッカー学,テニス学,水泳学,が成立します。

 ここでは例として,サッカー学をとりあげてみましょう。

 実際にサッカーの練習をはじめるにあたっては,まずは,練習期間とその期間に達成すべき目標を立てます。そして,その目標を達成するための練習計画を立てます。そして,その計画に従って練習(実践)をします。その結果をきちんと記録し,そのつど,感じたり考えたりしたことも記入しておきます。そうして練習期間が終わったところで,当初の目標がどの程度に達成できたのか分析し,検討します。そこからは,さまざまな反省も生まれてくるでしょう。そうした反省に基づいて,また,つぎの期間の練習目標を定め,練習計画を立てます。この繰り返しが,スポーツ実践学の重要な柱となります。

 しかし,この段階でも,当然のことながら,練習計画の具体的な内容を決めるときには,スポーツ科学の知見を参考にしなければならなくなってきます。たとえば,走力や脚筋力を高めるためのトレーニング方法を選定するときには,いまの自分の力量にもっともふさわしいプログラムを組む必要があります。あるいはまた,集中力や持続力を高めるためのトレーニング方法などについても,スポーツ科学の知見を参照することになります。

 また,同時に,モチベーションを高めるためには,サッカーの名選手の伝記を読んだり,技術や戦術に関する文献を渉猟したりします。ときには,サッカーの歴史や哲学に関する文献を読んだりもします。こうしてサッカーに関する幅広い教養を身につけていきます。

 つまり,これらのことは「サッカー」の実践をとおして,すべて同時進行していきます。ですから,サッカーの実践(練習)だけが独立して行われるのではなく,つねに,スポーツ科学の知見を参照したり,スポーツ文化学の文献を読み漁ったりしながら,サッカーの奥義に接近していくことになります。

 このようにして,サッカーにトータルに習熟していく過程を研究する「サッカー学」は,スポーツ実践学だけではなく,スポーツ科学もスポーツ文化学も,その必要に応じて同時に連動していくことになります。三位一体とは,こういうことを意味します。

 以上が,スポーツ実践学という研究領域を中心に考えた場合の事例です。

 この他のスポーツ科学やスポーツ文化学という研究領域には,さらにそれぞれの専門の細分化された研究領域があります。スポーツ科学でいえば,スポーツ生理学,トレーニング科学,スポーツ心理学,などがあります。また,スポーツ文化学には,スポーツ哲学,スポーツ史,スポーツ社会学・・・・,といった具合です。

 以上のように,スポーツ学を成立させるための三つの研究領域は,お互いに寄り添いながら,支え合うという関係にあります。そして,これら三つの研究領域のすべてが重なる領域に「スポーツ人間学」が位置づきます。

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