2015年2月4日水曜日

『何度でも言う がんとは決して闘うな』(近藤誠著,文春文庫,2015年刊)を読む。理路整然。必読。

 がんに関する本は,胃ガンを患う前から,いつのまにかたくさんの本を読んできました。手術をしてからはなおさらです。本屋で,これは?とおもわれる本をみつけると,片っ端から買ってきて,むさぼるようにして読みました。帯津良一さんの本も近藤誠本も山ほどあります。どの本もだれでもわかる,読みやすいものばかりです。

 
が,今回取り上げましたこの本の,ふつうで言えば第2章に相当する二番目の話題のところは秀逸です。近藤本の決定版といっていいでしょう。目次を書いておきましょう。
 
がん治療の常識をくつがえした『患者よ,がんと闘うな』の衝撃
 近藤先生,本当にがんと闘わなくていいのですか? 宮田親平×近藤誠
 がん専門医よ,真実を語れ 宮田親平×近藤誠
 すべての批判に答えよう 『患者よ,がんと闘うな』反論への反論

 まずは,宮田親平×近藤誠の対談が凄い。やや専門的な話になっていますが,わたしたちでも読めます。なにが凄いのか。近藤さんが「消化器集団検診学会」(現・消化器がん検診学会)にスピーカーとして招聘され登壇し,議論したときの話が凄い(1996年10月19日)。こまかな議論は省略しますが,なにせ,れっきとした学会だというのにまともな議論が成立せず,近藤理論をあげつらって,ひたすら寄ってたかって誹謗中傷するばかり・・・・,その現場に対談者の医療ジャーナリストである宮田親平氏が立ち会っていて,そのときの話題が展開するくだりは必読です。消化器がん検診学会というものの実態が浮き彫りにされています。深読みをすると「鳥肌」が立ってくるほどの迫力満点の内容です。

 要旨だけ触れておきますと,近藤さんの「がん検診不要論」(その根拠もきちんと提示している)に対して,会長以下,総掛かりで近藤さんを孤立無援の情況に追い込み,しかも,なんの根拠も提示しない/できない,たんなるあげ足取りに終始する学会員の人たち。この議論を見届けた上でのお二人の結論は,がん検診を否定されたら食べていかれなくなってしまうというたんなる条件闘争にすぎない,というもの。しかも,がん検診にまつわる暴利をむさぼっている数多くの利害団体がバックに控えていて,なにがなんでも「がん検診」は必要なのだ,という結論ありきの議論でしかなかった,と。そして,お二人の到達した結論は,たんなる金儲けのための「がん検診」でしかない,ということが逆に明るみにでてきた,と。

 近藤さんの結論は,「がん検診は百害あって一利なし」。

 それを裏づける近藤さんの理論は明快そのものです。がんには大別して二つの種類がある。一つは「スピードがん」,もう一つは「のんびりがん」。「スピードがん」は文字とおり進行の速いがんで,検診で見つかったときにはすでに手遅れであり,すでに手のほどこしようがない「がん」。「のんびりがん」も文字どおりのんびりと進行するがんで,検診で見つかっても放っておいて構わない「がん」。「スピードがん」は急いで治療しても手遅れだから治らない。それどころか,治療することによって,かえってがん細胞を散らすことになり,寿命が短くなる。「スピードがん」であっても,むしろ,放っておいた方が長生きできる。「のんびりがん」は,逆に,進行がのんびりしているので,下手に手を出して治療するよりは放っておく方が長生きできる。

 近藤さんは,この理論を裏づけるデータもきちんと提示しています。そして,もし,反論があったら,きちんとデータを提示して反論してほしい。そして,より精度の高い理論を構築するために協力してほしい,と主張しています。

 だから,現段階では,いずれにしても,がん検診などをしても意味はない,と。

 「早期発見・早期治療」がむかしからうたい文句のようにして掲げられてきました。わたしの頭のなかにも立派に刷り込まれています。だから,早く発見すれば助かる,と思い込んでいました。もはや,これは動かしがたい日本人の「神話」となっています。

 がしかし,この理論にはなんの根拠もないということを近藤誠さんは,外国の事例をはじめ,ご自分のもっているデータまで提示して完全否定しているのです。これに対して「反論」があったらしてくれ,と近藤さんはがん専門医に向けて挑発してきました。が,だれひとりとして反論する人は現れない。なぜなら,がん専門医ならだれでも知っている常識だから,と。知らないのはがん専門医以外の人たちだけで,いまや,神話化してしまって独り歩きをしている,と近藤さんは声を大にして主張しています。

 こうした近藤理論に対して,雑誌や週刊誌で批判をするがん専門医が現れるので,そのつど,直接,議論をしたいと近藤さんは申し入れをするそうです。しかし,だれひとりとして対談・議論に応じてくれる人はいないのだそうです。これも奇怪しな話です。

 このさきは深い闇につつまれています。しかし,少しものごとを考える力のある人ならば,その理由がどこにあるかは簡単に推測できることです。ですから,ここでもこれ以上は深追いしないでおくことにします。わたしは考えれば考えるほどに「鳥肌」が立ってきます。とてつもなく恐ろしい地獄のような世界が広がっている,と想像がつくからです。さらに,詰めていきますと,矛盾だらけの医療システムの恥部をひた隠しにする,これまたとてつもなく大きな力がはたらいていることも,透けてみえてきます。そこは「経済」と「政治」の恥部でもあります。

 「医療」と「経済」と「政治」の三位一体。そこに「最先端科学技術」が加わります。恐るべき世界の絶ちがたい連鎖です。

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